認知行動療法を上手に使うための丁寧な話の聞き方          ~アメリカ留学中 精神科医 A先生の心の成長を支えるアプローチ~

こんにちは。精神科医のAです。今回から3回にわたって、「認知行動療法を上手に使うための丁寧な話の聞き方」についてお話ししていきたいと思います。3回も話すなんてくどいと思われるかもしれませんが、私はこの丁寧な話の聞き方こそが、一番難しくて、一番大切だと思っています。

傾聴とは?

「傾聴」という言葉を聞いたことがありますか?これは、ただ相手の話を聞くだけでなく、相手の気持ちや考えを深く理解しようとする聞き方のことです。多くの人は普段、無意識のうちに自分の経験や価値観を元にして相手の話を聞いています。しかし、これでは真の意味で相手の話を「聴く」ことにはなりません。

傾聴の基本ポイント

傾聴には、以下の4つのポイントがあります。

  1. 注意を向ける: 相手の話に集中し、周囲の雑音や気を散らすものを排除します。相手に関心を持ち、体全体で相手の話を受け止める姿勢を見せます。
  2. 共感する: 相手の感情や立場に共感し、理解しようと努めます。自分の経験や価値観を押し付けず、相手の視点に立つことが重要です。
  3. 質問する: 相手の話をより深く理解するために、適切な質問をします。相手が話しやすい環境を作り、相手の話を引き出すように心がけます。
  4. フィードバックをする: 相手の話を要約したり、繰り返したりすることで、相手が自分の話が理解されていることを確認できます。例えば、「つまり、こういうことですね」といった形で確認します。

傾聴の難しさ

言葉にしてしまうと簡単そうですが、「相手の視点に立つ」というのは本当に難しいことです。特に大人が子供の話を聞くとき、同じ目線に立たないようにしようとか、大人としてリードしなければ、という気持ちがあるとより一層難しくなるかもしれません。

例えば、学校の先生が自分を傷つけている中学生の女の子に「何があっても自分を傷つけてはいけない。お母さんが悲しむよ」と伝えました。この先生は、その子の話を丁寧に聞くことができていたでしょうか?その状況を詳しく見てみましょう。

女の子は「みんなに嫌われているように感じる」と先生に言いました。先生は「そんなことないよ。中学生のときは誰でもそういう風に思うものだよ、自分もそういう時があったな」と返しました。女の子はなんだかわかってもらえていないような気がして、自分を傷つけているという話までしました。

先生の反応は、よくある大人の反応だと思います。一見、寄り添い共感しているようにも見えますが、「みんなに嫌われているような気がする」という言葉を「そんなことない」と否定し、「中学生ならだれでも」と一般化しています。これでは、話を聞いたことにはなりません。

さらに、「自傷はだめだ」と判断し、諭しました。大人として、正しいことを教えるのは大事かもしれませんが、相手の立場に立つことが重要です。自分がその女の子だったらどう思うか、先生の立場だったらどう感じるかを考えてみてください。

他人の靴を履く

私の好きな言葉に「他人の靴を履く」というものがあります。他人の立場に立ってみると、見えてくるものが全く異なります。自分では経験したことがなくても、その人の立場に立ってみる、想像してみる。それがまず傾聴の第一歩です。

では、具体的にどうやって傾聴を実践するのか、次回はその女の子の話を例に具体的に見ていきましょう。

※認知行動療法は、認知(考え)と行動の変容を促し、こころの問題を解決する心理療法です。

千葉⼤学で2019年4⽉に⽴ち上げた「簡易(低強度)認知⾏動療法的アプローチによる相談⽀援を⾏うメンタルサポート医療⼈養成プログラム」では、対⼈援助職の⽅々を⽀援しています。

2023年度より千葉⼤学発ベンチャー「株式会社メンサポ」が上記の教育⽀援事業を引き継ぎました。

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