文化ととらえ方          ~アメリカ留学中 精神科医 A先生の心の成長を支えるアプローチ~

こんにちは。精神科医のAです。私は今、アメリカの大学で心理学の勉強をしています。今日は、CBTからは離れますが、とても興味深い経験をしたので、そのお話をしたいと思います。

先日、ある授業で「I am ~」の後に自由に言葉をつなげ5つ文章を作る課題がありました。私は「I am a student, I am a mother, I am a Japanese, I am a psychiatrist, I am a female」と書きました。しかし、アメリカの学生の一人は「I am kind」と書いていました。その違いに、私はとても興味を持ちました。なぜなら、私は自分の性格を書く発想が全くなかったからです。

気になって、日本人3人とアメリカ人3人に同じ質問をしてみました。もちろん、個人間の違いはあると思いますが、日本人は総じて「自分の属性」を表す言葉を選び、アメリカ人の二人は「I am creative」「I am diligent」など、自分の内面的な特徴や価値観を表現していました。

そこで私は考えました。なぜ私は「I am kind」や「I am creative」等と言わないのだろう? その答えは、私の中にある「他者からの視点」でした。「本当に私は優しいのか?」「誰かにそうじゃないと言われるかもしれない」という意識が無意識に働いていたのです。これは、日本の文化に根付いた同調圧力の影響なのかもしれません。私は100点を目指しているわけではないけれど、「間違いではないことを言う」という姿勢が、すでに身についていました。間違いでないことをいうことは、当たり障りなく、周囲に溶け込むことができるからです。そして、それは私だけではなく、9歳の娘も同じでした。娘に聞いてみると、『I am kind なんて言わない。なんか恥ずかしい。』と言いました。

一方、アメリカ人の友人にこの話をすると、「どういうこと? 自分のことを相手に伝えたほうがわかってもらえていいでしょ?」と返されました。彼らにとって、「I am ~」は、他者の評価ではなく「自分がどう思っているか」を表すもの。独立性を重視する文化では、自分が自分をどう捉えているかが大切であり、それを表現することが「正しい」ことなのです。

もちろん、日本の文化にも素晴らしい面があります。周囲との調和を大切にすることは、日本の良さの一つです。しかし、ほんの少しだけ、「私はこう思うんだ」と、誰からの評価を気にせずに自分を表現してもいいのかもしれません。自分をどう感じ、どう捉えているかを、もっと素直に伝えることができたら、新しい視点や自己理解につながるのではないかと思いました。

最後に、カウンセリングの授業で学んだ、カール・ロジャーの言葉を記します。

I think if the therapist feels ”I want to be as present to this person as possible. I want to really listen to what is going on. I want to be real in this relationship. then these are suitable goals for the therapist"(Baldwin, 1987

「セラピストが『この人にできるだけ寄り添いたい。本当に何が起こっているのかをしっかり聞きたい。この関係の中で自分も本物でありたい』と感じるならば、それらはセラピストにとって適切な目標となるでしょう。」

※認知行動療法は、認知(考え)と行動の変容を促し、こころの問題を解決する心理療法です。

千葉⼤学で2019年4⽉に⽴ち上げた「簡易(低強度)認知⾏動療法的アプローチによる相談⽀援を⾏うメンタルサポート医療⼈養成プログラム」では、対⼈援助職の⽅々を⽀援しています。

2023年度より千葉⼤学発ベンチャー「株式会社メンサポ」が上記の教育⽀援事業を引き継ぎました。

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