こんにちは。精神科医のAです。今回は、認知行動療法(CBT)の中でも重要な手法の一つである「行動実験」についてお話ししたいと思います。
行動実験は、不安や悩みを抱えている人が、その原因となっている「思い込み」や「信念」がどの程度現実に合っているのかを、実際の行動を通じて検証する手法です。
たとえば、「人前で話すと必ず失敗して恥をかく」という思い込みがある場合、それを行動で確認し、新たな気づきを得ることが目的です。この手法は、不安症や「回避行動」を改善するために特に効果的です。
ある中学生の女の子は、「おしっこをもらしてしまうかもしれない」という強い不安から、バスや電車に乗れない状況にありました。また、「人に変な目で見られるのではないか」という恐れもありました。彼女の中では、「乗り物に乗ると必ずトイレに行きたくなる」と思い込んでいたのです。ここでは、彼女が行動実験を通じて変化していったプロセスをご紹介します。
仮説を立てる
セッションの中で、彼女の思い込みを明確にしました。
仮説:「バスや電車に乗ったら、必ずトイレに行きたくなって、おもらししてしまう。周りの人から変な目で見られる。」
行動計画を立てる
仮説を検証するため、彼女にとって実行可能な範囲で実験を計画しました。
最初のステップ:「自宅の近くのバス停から次のバス停まで乗ってみる。」
実験を行う
実際にバスに乗る前に、「トイレに行きたくなったらどうするか」を一緒に考え、不安が強い場合の対処法も確認しました。そして、彼女は実験を通じて次のような気づきを得ました:
「確かに少し不安になったけれど、実際にはトイレに行きたくならなかった。」
「周りの人は、誰も私を気にしていなかった。」
検証
実験後、仮説が正しいかどうかを一緒に検証しました。
結果:「思い込み」は実際の体験とは異なることがわかった。
「必ずトイレに行きたくなる」という仮説は否定され、不安は徐々に和らいだ。
「周りの人は私を変だと思う」という信念も、実際には当てはまらないと気づけた。
ステップを少しずつ進める
その後も実験を続け、徐々に距離を伸ばしていきました。彼女は次第に「たとえトイレに行きたくなっても、意外と我慢できる」という感覚をつかみました。さらに、「周りの人は私のことなんて気にしていない」という新しい視点も得ることができました。
行動実験の中では、「回避行動」を減らすことが重要なポイントとなります。
回避行動とは、不安や恐怖を感じる場面を避けるために行う行動のことです。
たとえば:
回避行動は、一時的に不安を和らげるかもしれませんが、長期的にはその不安を強化し、生活の自由を制限することにつながる場合があります。行動実験では、少しずつ回避行動を減らすことで、不安を軽減し、新しい自信を育てることを目指します。
この中学生の女の子は、行動実験を繰り返す中で、不安を引き起こしていた思い込みが現実にそぐわないことに気づきました。その結果、バスや電車に乗ることへの不安が薄れ、自由に移動できるようになったのです。
行動実験は以下の点で効果を発揮します:
行動実験は、不安や悩みに対して「行動を通じて現実を確認する」方法です。今回ご紹介した中学生の女の子のように、少しずつステップを踏むことで、「思い込み」が実際とは違うと気づくことがあります。その気づきが、新しい自信や行動のきっかけとなるのです。
もし、「不安でやりたいことができない」「思い込みが強くて困っている」という場合は、ぜひ行動実験を試してみてください。必ずしも大きな挑戦から始める必要はありません。小さな一歩から取り組むことで、大きな変化を実感できるかもしれません。
次回は、ストレスへの対応方法(リラクゼーションを含む)についてお話ししたいと思います。お楽しみに!
※認知行動療法は、認知(考え)と行動の変容を促し、こころの問題を解決する心理療法です。
千葉⼤学で2019年4⽉に⽴ち上げた「簡易(低強度)認知⾏動療法的アプローチによる相談⽀援を⾏うメンタルサポート医療⼈養成プログラム」では、対⼈援助職の⽅々を⽀援しています。
2023年度より千葉⼤学発ベンチャー「株式会社メンサポ」が上記の教育⽀援事業を引き継ぎました。
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