こんにちは。精神科医のAです。今回は子どもに対する認知行動療法(CBT)についてお話しします。過去のコラムでは、子どもに寄り添って話を聞くことの大切さについてお伝えしましたが、認知行動療法は単に話を聞くのではなく、セラピストが積極的に介入し、リードしていく療法です。傾聴とリードのバランスを取ることがとても重要です。
CBTでは、子どもに「こんな風に考えることもできるよ」と提案していきます。つらい感情に圧倒されている子どもに対して、正しい知識を伝えることは大人の重要な役割です。私はよく「子どもと若者のための認知行動療法ワークブック(スタラード,ポール著)」を使用します。この本には日常的な具体例が豊富にあり、それを読むと多くの子どもが「私と同じだ」と共感してくれます。
例えば、テストで悪い点を取ったときに「私は本当にバカなんだ」と落ち込む子どもが、他の人も同じような経験をしていることを知ることで、「一人じゃないんだ」と感じたり、「自分の思いは変じゃない」と気づいたりします。時には、読み進めながら涙を流す子もいます。これは、自分の状況が一般的なものであることを理解する、いわゆる「疾患教育」の一環です。このプロセスは、自分の置かれている状況を客観的に見るための第一歩となります。
次に、子どもたちに「認知」とは何かを教え、思考が感情や行動に与える影響を理解してもらいます。否定的な思考を「私はダメだ」と感じる代わりに、「今回はうまくいかなかったけど、次はもっと頑張れる」といったポジティブな思考に変える練習をしていくことを理解してもらいます。
CBTでは、問題解決スキルを身につけることも重要であることを伝えます。具体的な問題に直面したときの思考や行動を一緒に考え、友達とのトラブルや学業のプレッシャーに対処する方法を学ぶことを知ります。また、もやもやとした感情を「不安」「苛立ち」などで「ラベル付け」することで、自分の気持ちを認識し、表現することの大切さも伝えます。
環境が感情や思考に与える影響も重要であることを知ってもらいます。ストレスの多い環境やサポートが不足している場合の自分の感情の変化を理解することで、より良い対処法を考える助けとなります。
例えば、ある中学生の男の子が、学校に行こうとするたびにおなかが痛くなることに気づきました。痛みがあまりにもひどく、学校に行けない日々が続き、私のもとに相談に来ました。私は「学校で何か辛いことがあるのですか?」と尋ねましたが、彼は「全然ない。学校は楽しいし、おなかさえ痛くなければ行ける」と答えました。
その後、母親や学校の先生にも話を聞くと、彼はクラスのリーダー的存在で、部活動や勉強でも常に完璧を目指して頑張っているタイプの子だとわかりました。また、父親から「常に一番を目指すように」と言われていることも影響していました。
このようなケースでは、本人が自分の置かれている環境やストレスの原因に気づいていないことがよくあります。そこで、私は彼に「常に緊張しているとおなかが痛くなることがある」と説明し、どんな環境がそうした緊張を生むのかを一緒に考えました。そうすることで、彼は少しずつ自分の感情に気づくようになりました。
自分の状況が他の人にも起こりえることをしり、認知行動療法における、一般的な知識を得たら、次は自分の状況を分析する段階に進みます。この分析が、CBTの核心的な部分です。
次回は、状況を分析する段階について詳しく見ていきますので、お楽しみに!
※認知行動療法は、認知(考え)と行動の変容を促し、こころの問題を解決する心理療法です。
千葉⼤学で2019年4⽉に⽴ち上げた「簡易(低強度)認知⾏動療法的アプローチによる相談⽀援を⾏うメンタルサポート医療⼈養成プログラム」では、対⼈援助職の⽅々を⽀援しています。
2023年度より千葉⼤学発ベンチャー「株式会社メンサポ」が上記の教育⽀援事業を引き継ぎました。
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